折りたたみスマホはAIの時代に逆行しているのか

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iPhone Duo の発表を、素直に喜べませんでした

2026年9月9日、Apple が同社初の折りたたみスマートフォン「iPhone Duo」を発表しました。閉じた状態で5.4インチ、開くと7.6インチという、iPhone としては過去最大のディスプレイを持つ端末です。日本での価格は36万4800円から、発売は10月23日となっています。

新しいハードウェアが出てくるのは楽しいことですし、折りたたみという構造そのものには以前から興味を持っていました。ところが今回に限っては、発表を見ながら「これ、いま必要なんだっけ?」という気持ちが先に来てしまいました。

なぜ素直に喜べなかったのか。その理由をうまく言葉にできないまま、しばらく考え込んでしまいました。ここでは、その違和感を少しずつ解きほぐしていった過程について書いてみたいと思います。先に言っておくと、途中で考えが変わりました。

折りたたみは、二つの大きさを一台にしたもの

まず、僕が折りたたみスマートフォンをどう理解していたかを書いておきます。

とてもシンプルで、「小型のスマートフォンと、中型のタブレット、この二つの利点を一台にまとめたもの」という理解でした。普段はポケットに入る大きさで持ち歩き、大きな画面が欲しいときだけ開く。一台で二つの大きさを実現できる、というのが折りたたみの価値なのかなと思っていました。

実際、各社の製品はその理解にきれいに収まります。iPhone Duo は5.4インチから7.6インチへ。Samsung の Galaxy Z Fold 8 Ultra は6.5インチから8.0インチへ。Google の Pixel 11 Pro Fold も6.5インチから8.0インチへ広がります。どれも「閉じればスマートフォン、開けば小さなタブレット」です。

市場もそう見ているようです。MM総研の予測では、日本国内の折りたたみスマートフォンの出荷台数は2025年度の33.4万台から2026年度には76万台へと倍増し、2027年度には100万台を超えるとされています。折りたたみ iPhone の登場が起爆剤になる、という見立てです。

折りたたみiPhone登場で2027年度は100万台規模へ - m2ri.jp

一台で二役こなせるなら、持ち歩くデバイスが減ります。これは素直に良いことだと思っていました。

ところが、数字が合いません

さて、ここからが引っかかったところです。

「二つの利点を合わせたもの」であるなら、出てくる製品はどちらの側から見ても良いものになるはずです。ところが実際のスペックを並べてみると、そうなっていません。

iPhone Duo の重さは254gで、歴代の iPhone で最も重い端末になりました。厚さは開いた状態で5.2mm、これは iPhone Air の5.6mm より薄く、ここは素直に驚きました。しかし閉じれば11.3mm です。つまり、持ち歩いているあいだはずっと、普通のスマートフォンより厚くて重い端末を抱えていることになります。

価格も同じ話です。36万4800円という金額は、普通の iPhone と小さめのタブレットを別々に買っても届かない水準です。二つの利点を合わせたはずなのに、二つ買うより高い。これは僕の理解では説明がつきませんでした。

もうひとつ、画面の形も気になりました。折りたたみの内側ディスプレイは、例えば Galaxy Z Fold 7 が1968×2184、Pixel 10 Pro Fold が2076×2156です。ほとんど正方形です。一方、一般的なタブレットは4:3や16:10といった、はっきりした長方形をしています。つまり、開いた状態の折りたたみは、形の上ではタブレットとは別のものです。

ではなぜ正方形に近いのかというと、スマートフォン幅の列を横に二つ並べるためです。これはスマートフォンにもタブレットにもない、折りたたみだけが持つ形かなと思います。

そして決定的だったのが、Samsung が2026年7月に Galaxy Z Fold 8 を二機種に分けたことです。短くて広い Z Fold 8 は「コンテンツを見るため、折りたたみが初めての人のため」、縦長の Z Fold 8 Ultra は「左右に並べたマルチタスクのため」と説明されています。もし「スマートフォンとタブレットの合体」で説明がつくのなら、形はひとつで足りるはずです。足りなかったから分けたのだと思っています。

AIが隣にいる時代の、デバイスの役目

違和感の正体が見えてきたのは、話をAIのほうに引き寄せてからでした。

生成AIの登場によって、AIの性能は飛躍的に向上しました。そして多くの人が使い始め、その利点を受け取り始めています。ではAIの利点とは何かというと、僕は「すぐ隣にいて、気軽に話しかけると、価値のある返事が返ってくる」ことが現実的になったことだと思っています。

Alexa や Google アシスタントがやろうとしていたのは、まさにこれでした。あれらが物足りなかったのは、声を聞き取れなかったからではありません。返事に価値がなかったからです。そう、足りなかったのは耳ではなく、頭のほうでした。生成AIはそこを解きました。

AIアシスタントが当たり前になった世界を想像すると、ユーザーが持つデバイスの役目は、次の三つに収束していくように思えます。

  • センサーやカメラ、GPS、ネットワークを通じて、ユーザーが今どんな状況にあるのかを捉え、AIの文脈を常に最新に保つこと
  • ユーザーが発した声を理解し、それを即座にAIへ届けること
  • AIが考えたことや実行したことから返事を作り、音声としてユーザーに伝えること

この三つを満たせるのであれば、大きな画面も高い性能も必ずしも必要ありません。返事は音声で足りる場面が大多数を占めるはずです。

実際、この方向には本気の金額が動いています。OpenAI は Jony Ive 氏のハードウェア企業 io を60億ドル規模で買収し、画面を持たない音声中心のデバイスを開発しています。初期生産は4000万台から5000万台という規模が報じられていて、設計の思想は「calm computing」、つまり画面への依存を減らすことだとされています。

Meta のほうは、すでに結果が出ています。Ray-Ban の親会社である EssilorLuxottica は、2025年にAIグラスを700万台以上売りました。2023年と2024年の合計が200万台だったことを考えると、一気に跳ねたことになります。2026年末までに生産を2000万台規模へ倍増させる検討も報じられています。

Ray-Ban maker EssilorLuxottica says it more than tripled Meta AI glasses sales in 2025 - cnbc.com

スマートフォンでは画面を大きくする競争が起きていて、その一方でAIデバイスでは画面をなくす競争が起きている。「これ、真逆の方向を向いているんじゃないのか」というのが、僕が発表を素直に喜べなかった理由でした。

それでも画面が必要な理由

ところが、ここから考えが変わりました。

まず気付いたのは、音声について、入力と出力を同じものとして扱ってしまっていたことです。声は、人間が出す側としてはとても優秀です。速いですし、手が塞がっていても使えます。しかし受け取る側としては、かなり不便です。音声は一列に並んで流れていき、そして消えます。戻って読み直すことができません。

「今日の天気は」のような、答えがひとつに決まる問いであれば音声で完結します。しかし「条件に合う候補を五つ出して」と頼んだ瞬間に破綻します。五つの候補それぞれに四つの属性がついていたら、耳から入れて頭に保持するのは無理です。比較すること、確かめること、位置を把握すること、そして見返すこと。これらはどうしても画面の仕事になります。

それに、生成AIが作り出すものはテキストだけではありません。画像や動画といった「目で見て初めて認識できるもの」も数多くあります。そしてそれらを確認するとき、音声で説明を聞くよりも、目でパッと見て確認するほうが圧倒的に早いです。「一目瞭然」という体験のほうが適している場面は、日常の中にいくらでもあります。

そう考えると、AIの時代になっても画面はなくなりません。AIが様々なコンテンツや提案を作ってくれるようになるほど、人間はそれを受け取って確認する「見る人」になっていきます。そして見る作業には、どうしても画面が必要です。

ただ、そのために大きな画面が常に必要かというと、必ずしもそうではありません。高性能なデバイスである必要もありませんし、なんなら「常に携帯している必要もない」はずです。確認したいときに、身近にある液晶画面であればどれでも良いわけです。

画面のない未来は、これが初めての挑戦ではありません

もうひとつ、考えを変える材料がありました。歴史です。

画面を持たないデバイスという賭けは、今回が初めてではありません。そして結果が、どれも同じ方向を向いています。

Humane の AI Pin は、画面を完全に捨てて手のひらにレーザーを投影する端末でした。発表時の期待は大きかったのですが、評価は厳しく、2025年には事業そのものがたたまれています。Amazon の Alexa は音声だけで10年近くやってきましたが、行き着いた先は Echo Show、つまり画面を足すことでした。

そして Meta の Ray-Ban です。あれはセンサーで状況を捉え、声で聞き、声で返すという形を、かなり理想に近いところまで実装した製品だと思っています。しかも売れました。その上で次に用意されたのが Ray-Ban Display、やはり画面を足したモデルでした。米国では想定を超える需要があり、国際展開を後ろ倒しにしたと報じられています。

音声から始まったデバイスが、ことごとく画面を足す方向へ収束している。これは偶然ではないのかなと思っています。

ちなみに、OpenAI のデバイスのほうは遅れています。商標をめぐる争いで「io」という名前も使えなくなり、出荷は2027年2月以降になるという報道も出ています。画面をなくすというのは、思っていたより簡単ではないのかもしれません。

Jony Ive’s AI hardware is delayed to 2027 and won’t be called io - 9to5mac.com

本当の問いは「画面の居場所はどこか」でした

ここまで来て、最初の問いの立て方がずれていたことに気付きました。

僕が考えていたのは「AIの時代に画面は要るのか、要らないのか」でした。しかし画面は要ります。むしろAIが増やします。だとすれば、問うべきだったのは別のことです。それは「画面の居場所はどこなのか」という問いです。

こう分けて考えると、風景が変わって見えてきました。常に持ち歩く層には、メガネやイヤホンや時計が来ます。ここが担うのは、センサーによる状況の把握と、声のやり取りです。その一方で、確かめたり、見比べたり、作り直したりする層があります。ここには折りたたみやタブレットやPCが来ます。そしてAIが、この二つの層のあいだをつなぎます。

もう少し具体的に言うと、これからは次の二つがそれぞれ進化していくのではないか、と思っています。

ひとつは「AIデバイス」です。これは音声を含むセンサーを中心としながら、移動中など身近に画面が見当たらないときに使う、携帯用の画面デバイス(画像や動画を確認できさえすれば良いシンプルなもの)を組み合わせた形です。

そしてもうひとつが「今後のスマートフォン」です。こちらは、AIデバイスでは対応できないけれど移動中などに行いたい作業を、しっかりこなせるだけの広い画面を持った高性能なデバイス(まさに iPhone Duo)です。

この形、どこかで見た覚えがあります。スマートフォンが登場したとき、PCは死ぬと言われました。しかしPCは死にませんでした。軽い用事を下から奪われた結果、PCは上に特化していきました。同じことが、いまスマートフォンに起きているのかなと思っています。軽い問い合わせをAIデバイスに奪われたスマートフォンが、上に特化する。その形が折りたたみなのではないか、という読み方ができます。

もちろん、これは後付けの説明です。折りたたみの起点は2019年の Galaxy Fold で、ChatGPT より前の話です。AIに備えて設計されたわけではありません。たまたま、これから必要になる役割と形が合っていた、という程度のものかなと思っています。

そして正直に言うと、折りたたみが正解だと確信できたわけでもありません。今回の各社の発表を並べてみても、「このデバイスはAIの感覚器として優れています」と言った会社はひとつもありませんでした。Apple が見せたのは、撮られる側が外側の画面で写りを確認できる Duo Preview や、周りの人が外側の画面から通話に加われる Duo FaceTime です。どれも面白い機能ですが、AIの文脈を集める話ではありません。

Apple は画面を増やすほうに賭け、Meta は画面を顔に載せるほうに賭け、OpenAI は画面をなくすほうに賭けています。三社が三方向に、それぞれ本気の金額を積んでいます。これはつまり、業界もまだ答えを知らないということなのだと思います。

まとめ

今回は、折りたたみスマートフォンがAIの時代に逆行しているのではないか、という違和感について考えてみました。

ここまでの思考の流れを整理すると、次のようなステップでした。

  • 折りたたみスマホへの違和感: 「一台二役」という理想に対し、実際は重く・厚く・高価で、画面もマルチタスク向けの正方形へと向かっている。
  • AI時代の画面不要論: 生成AIの普及により、常時状況を捉えるセンサーと音声対話が主役になり、画面をなくす方向(スマートグラス等)へ巨額の投資が進んでいる。
  • 画面の不可欠性: 人間にとって音声は「受け取り・比較・一覧」に弱く、AIの生成物を確かめる「見る作業」には画面が欠かせない。歴史的にも画面なしデバイスは画面追加へと収束してきた。
  • 画面の居場所と二層化: 問いは要否ではなく「画面の居場所」。常時携帯する「センサー層」と、しっかり確認する「作業層」に分かれ、スマホが上位特化した形が折りたたみではないかという仮説。
  • 業界も答えを模索中: Appleは大画面、Metaは顔、OpenAIは画面レスと三者三様であり、誰もまだ正解を知らない過渡期にある。

調べて考えた結果、逆行ではないというところに落ち着きました。AIは画面を減らしません。人間を作る側から見る側へ移していくので、確かめるための面積はむしろ必要になります。ただし、折りたたみが正解だと決まったわけでもありません。画面の居場所がどこなのかは、まだ誰も知らないのだと思っています。

素直に喜べなかったという気持ちから始めて、途中で考えが変わったのは、書いていて面白い体験でした。皆さんは、折りたたみという形をどう見ているでしょうか。本エントリが、新しいデバイスを眺めるときの視点のひとつになれば幸いです。