UI設計は専門デザイナの領域

コンピュータシステムは,利用者が操作を行うためのユーザインタフェースが必ずと言っていいほど備わることになる。これは別に特別なことじゃない。自動販売機にも,買いたい缶を選ぶためのボタンが並んでるし,車を操作するために,ハンドルやアクセルが付いている。要は,機械を人間が操作するためには,何らかのUIが必要だということだ。コンピュータをハードウェアでみた場合は,キーボードや電源ボタンなどがそれに該当する。ソフトウェアにおいても,それを人間が操作するためにはUIが必要になる。

さて,ソフトウェア開発において,どのようなUIを作るべきかといった問題は,コンピュータというものを人類が手に入れてからずっとテーマになっていることだと思う。「こう作ればよい」という絶対的な正解は,UIにはない。その代わり,非常にファジーな「使いやすい」「使いにくい」という尺度でUIは評価される。しかも,その尺度は個人によって左右されてしまうし,同じ人でもその利用シーンによってさらにその評価にブレが出てくるので,非常に難しい。そして,作り手が絶対の自信を持って使いやすいと訴えても,使う人が使いやすいと思ってくれるとは限らないところに,もどかしさを毎回感じてしまう。説明するまでもなく,ソフトウェア開発に携わっている人は,誰しも同じ感想を持っているだろう。

近年のソフトウェア開発では,昔よりも規模も大きくなり,複雑度も増しているために,他の業界と同じような「分業」がより行われるようになってきた。プロジェクトメンバーそれぞれに明確な役割を持たせて,その役割ごとにリスクを分散しないと,健全なプロジェクトの遂行はできない。僕は最近ITアーキテクトと呼ばれるようになった(自分でそう名乗ったことはない)けど,ますます業務と技術の役割分担が極端になってきている印象がある。業務は業務チーム,技術はアーキチーム,といった分担をしているプロジェクトが,開発ベンダーでは多い。

では,UIの設計はどちらなのだろうか。

まず,UIの設計手順を考えてみる。一般的には,以下のような感じだと思う。

  • UI設計ポリシーの策定

  • 外部設計としての,各UIの設計

  • デザイン要素の決定と各UIへの反映

いきなり各UIを設計しだしても,大抵は失敗する。まずはどのようなUIにしようかといった方針を決めないといけない。つまり,作ろうとしているシステムは,誰が使うもので,どのように使うもので,どのくらい使うもので,といった材料を持ち寄り,それを踏まえて,どのようなUIが使いやすいと判断されるのかを考えないといけない。そして,そのポリシーを原則守っていきながら各UIを設計する。基本的にポリシー通り全UIを設計すべきだが,例外的にポリシーに適用しない法が使いやすいと判断されるものがあるはずなので,そういったものを見つけるためにも,継続的なUIレビューが求められる。

各UIの設計ができたら,後は見てくれ的な要素をどうするかを考える。これは非常に重要で,人間は最初のぱっと見の印象で使いやすそうかどうかの判断が下される,という話をどっかで聞いたことがある。パッケージ製品を買うときは,数少ない画面ショットを見て購入の判断をしなければならないことも多いので,営業的な戦略を考えると,デザイン要素は非常に重要だ。

以上の3点だが,それを考える役割を持つ人は誰だろうか。(2)は,先ほどの業務チームが担当するだろう。(3)は,最近ではWebアプリケーション全盛なので,多くの場合Webデザイナと呼ばれている人をアサインしてデザインしてもらうだろう。

では,(1)のUI設計ポリシーは,誰が担うのだろうか。前述したチーム構成では,アーキチーム,つまりアーキテクトがポリシーを考えるよう指示を受けることが多いのではないだろうか。共通的な部分をアーキチームが担うことは間違っていないけど,ことアーキテクトという人物は,UI設計という分野は専門ではない。どんな画面が使いやすいのか,といったことについては,そういう勉強をしたことがない限り,プロフェッショナルとは言えない。

最近では,Webサイトの構築は企業の必須命題になっているため,サイト全体の構成や各ページの設計などの教育を行う専門学校も多くなったと思う。昔のデザイナと違う点は,広告などの1ページ単体のデザインのみで済むのではなく,Webサイトという複数ページでデザインを行わなければならなくなってきている。サイトマップ全体を見回して,閲覧しにきた人にいかに多くの情報を的確に伝えられるか,といったことについて,Webデザイナという職種はプロフェッショナルでないといけないと思っている。

であれば,(1)のUI設計ポリシーを決めるのは,業務設計者ではなく,アーキテクトでもなく,Webデザイナが適任なんだと思う。(3)のデザイン要素を決めるのもきっとWebデザイナなので,ソフトウェア開発プロジェクトの最初から最後まで,Webデザイナという要因は必要なんじゃないだろうか。Webデザイナに最初からプロジェクトに参戦してもらい,ユーザとともにUI設計を進めていくことで,ユーザも安心すると思う。ポリシーを決めるだけではなく,各業務の外部設計の成果をレビューすることも,Webデザイナの仕事とすべきだろう。

しかし,ソフトウェア開発プロジェクトの要員として,最初からWebデザイナが参画していることは,すっごく希である。もっと,ソフトウェア開発の中でWebデザイナの権限が大きくなってもいいと思っているのは,僕だけだろうか?

そこで気になるのは,ほかの業界ではどうなんだろうかということ。自動販売機を開発するときに,そのユーザインタフェース,つまりボタンの配置とか,硬貨を入れる位置とか,そういったことを自動販売機の設計者が考えているだろうか?デザイナという専門職の人を参画させて決めてもらうんだと想像しているが,違うのだろうか?車などは,車体のシルエットなども含めて,人間と車とのインタフェースの部分が非常に重要視される(操作性の低下は事故発生率の向上になるだろうから)ので,専門のデザイナが絶対に携わっているはずだ。

もし上記が正しければ,ソフトウェア業界はUIデザインという観点でも,他の業界に比べて非常に遅れていると言わざるを得ない。「ソフトウェアのUIで人は死なない」と思っていたら大間違いで,操作性が悪いせいで大きなミスオペレーションが実際に起きているし,超真面目な人なら,その責任を感じて自殺しちゃうかもしれない。それほどソフトウェアは重要であり,車と同じくらいの信頼性を確保するためにも,ソフトウェア専門デザイナという職種の確立は必須だし,ソフトウェア開発プロジェクトとして,そのような役割の人を置くことが当たり前になるべきだと思う。

ITアーキテクトは,設計をいかに実装に落とすかが専門です。UIデザインは・・・苦手なんです,きっと。

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