Lunakey Miniのケースを作り始めた話
Lunakey Miniの初号機が完成したのは、昨年2020年の11月の初めの頃でした。それからまだ半年も経っていませんが、すでにLunakey MiniはKochi Keyboardや遊舎工房にて販売されていて、徐々にお使いになられている方々も増えてきました。本当に感謝です。
Lunakey mini rev5 (ベースキット) - Kochi Keyboard
Lunakey Miniは、アクリル版で基板を挟み込む、いわゆるサンドウィッチ構造です。上記のお店で販売されているLunakey Miniのキットには、トッププレートとボトムプレートがそれぞれ同梱されています。組み立てると、以下のような感じになります。
一般的なキーボードとは違い、いかにも「自作キーボードキットを組み立てました!」という印象が強いと思いますが、組み立てた当時から「うわっ、かっこいい!」と思っていましたし、今も思っています。
「サンドウィッチ構造でも全然キーボードとしてありじゃん!これで最終形態だ!」と本気で思っていました。つまり、「ケースの製作に手を出す日は、僕には来ない」とお思っていました。数人には実際に「ケースまではやんないですよやだなぁ僕は沼になんて入ってませんよ」と僕は言っていたと思います。
前言撤回します。ごめんなさい、ケース製作に手を出し始めてしまいました。
Increments社に在籍していたときに一緒に働いていた方が以前 Corne キーボードのケースを作成していたのを目にしていました。どうやって作ったのか、そのときに聞いていたのですが、プレートの図面から、外周を立ち上げただけですよ、とのことでした。そんなに難しくはないですよ、と。
その言葉を忘れた日は、今までありませんでした。深層心理では、僕はケース作成をずっとやりたかったんだと思います。
3Dプリンタの購入から初期設定まで
何はともあれ、3Dプリンタがなければ話になりません。僕と同じGDEの一人が最近3Dプリンタを新調したのを目にしていたので、同じものを買いました。Ender 3 V2 です。
組み立て自体はそんなに難しくなくて、迷いながらも完成させることができました。噂では何やら事前準備が大変らしいのですが、まあ言うても単純なものであれば失敗することなく出力できるだろう、と思っていました。
いくつかネットで調べてみると、どうやら台にスティックのりを塗っておくと良いらしいです。そして、最初に印刷するものは「船」であると。船のモデルを早速ネットからダウンロードしてきて、Cura のデフォルト設定で SD カードに書き込み、印刷させました。
結果は、以下となりました。
今見返してみると、よくここまで出力できたな、と思います。2,3層目で大失敗しててもおかしくないです。
懲りずに、もっと単純なものなら大丈夫だろうと、小さな小物入れを出力してみるも、結果はこうなりました。
3Dプリンタ、難しすぎるでしょ、正しく出力される日は僕には来ないんじゃないか、と思いました。これは先が長そうです。
ここで3Dプリンタの先輩にアドバイスをもらいました。とにかくレベリングが全てである、スティックのりなんて必要ない、ちゃんとレベリングができていれば、のりなんてなくても定着するはずだ、と教えられました。
ノズルから台までの距離が紙の厚さ分だけ、ということは知っていましたが、じゃあ紙の厚さってどんなだよ、っていう「正しい感覚」がわからなかったのですが、その先輩から「結構力を入れてひっぱらないと紙が動かない程度まで攻めるべし、どうせ台に傷が入っても数千円で買えるよ」と言われ、実際に攻めてみました。だめでもすぐに新しい部品が買える、というのはかなり安心感を持てましたね。その先輩に感謝です。
で、攻めた結果、確かに最初とは全く異なる出力結果となり、「なるほど、これならスティックのりなんていらないや」と実感できました。単純なものから出力を開始してみて、レベリングをさらに調整していきました。
キレイに出力されるようになってきて、小物にも挑戦しました。結果は、大成功でした。
こうして、やっとスタートラインに立つことができました。
この3Dプリンタとの最初の格闘と並行して、fusion360 を使いこなすために勉強をしていました。スケッチとボディといった特有の用語を理解していきながら、直方体と押し出しを使って、1 Key プレートを作ってみて、出力してみました。
このときになって初めて、3Dプリンタがやっと自分のものになり、楽しくなってきました。
キーボードケースの設計と出力
そして、fusion360 でのキーボードケースの設計を数日間試行錯誤しながら進めました。フィラメントをまだ買っていなくて、Ender 3 V2 についてきた短いものしか手元になかったので、設計してはスケールを 50% 程度にして出力し、結果を見て改良をしていきました。
最初はトッププレートとPCBの間に突起を作って、そこで固定するタイプのものを作ってみましたが、サポート材がうまく作られずに、宙を舞う結果が続きました。これは 50% にスケールダウンしていることも原因かと思われますが、ちょっといきなりサポート材ありきのケースは難易度が僕には高いと反省しました。
そこで軌道修正して、トレイマウントからやってみました。これなら、ボトムプレートを基準にして、その周りにオフセットを作って押し出しでフレームを作るだけで設計が可能です。あとは、USBケーブルとTRRSケーブルを挿すための穴を作れば、それで完成です。
はい、できました。
Lunakey Mini を入れてみると、キレイに収まりました。
でも、USB端子とTRRSジャックの位置を超適当に考えてしまったがために、ケーブルは全く挿すことができませんでした。USBケーブルはギリギリ挿すことができましたが、
TRRSジャックは、話になりませんでした。
まあ、最初はこんなものです。これで3Dプリンタからちゃんとケースは出力できることもわかりましたし、ケーブルを挿す穴を開けることもサポート材が適切に出力されて可能であることがわかりました。フレームの高さを調整し、ちゃんと端子の位置を基板から求めてfusion360上で補正して、出力し直しました。
そして生み出されたLunakey Mini向けトレイマウントケース
そして、ついに、Lunakey Mini向けトレイマウントケースが完成しました。
USBケーブルもちゃんと奥まで挿すことができます。
もちろん、TRRSケーブルも奥まで挿すことが可能です。TRRSケーブルはVCC、GNDが通っているため、ちゃんと奥まで挿すことができないと故障の原因になります。
ケースの裏側からネジで固定しますが、そのネジ穴の位置もバッチリです。ネジ穴の直径は、アクリル板での直径だと3Dプリンタの出力結果では小さくネジが入らなかったため、1mm大きくしました。
さらにさらに、Twitter にて写真をシェアしたところ、Pro MicroとOLEDの上に来るカバープレートが隠れるくらいまではケースの高さが欲しい、という意見をいただいたので、高さを2.5mmほど追加して、ちょっと隠れるくらいにしてみました。
Lunakey Mini 専用トレイマウントケースの、完成です!
やったー!パチパチパチ。
最初の3Dプリンタでもじゃった時はどうなることかと思いましたが、無事トレイマウントケースを完成させることができました!
ケースで覆われてしまうので、Underglow LED の光は無駄になってしまうかな、と思っていましたが、白色のフィラメントで作ったケース越しに、Underglow LEDの光は十分にケース外まで届くようです。部屋を暗くすると、透明アクリル板のときよりも、幻想的に光が拡散されていて、キレイです。
打鍵音の違い
サンドウィッチ構造からトレイマウントケースに変化したことで、もちろん見た目が変化しました。でも、それ以上にびっくりしたのが、打鍵音の変化でした。
その違いがわかるように、録画をしてみました。
サンドウィッチ構造しか知らなかった時は、「十分に良い音じゃん」と思っていました。しかし、トレイマウントケースにしてみると、明らかに音が変化しました。具体的には、サンドウィッチ構造のときの音が「比較的高い音」だったのに比べて、トレイマウントケースでの音は「落ち着いた音」となりました。
シャカシャカ音というか、比較的高めの、ちょっと耳障りな音が、トイレマウントケースではほとんど出なくなったのです。
特にキースイッチをルブしたりはしていないので、完全にキースイッチは買ってきた時の音のままです。サンドウィッチ構造のままで使っていたら、近いうちにもしかしたらルブにチャレンジしていたかもしれません。でも、トレイマウントケースにして、ルブの必要性を感じなくなりました。それほど、音に違いがあります。もちろん、このトレイマウントケースの状態でキースイッチをルブしたら、もっと良い音になるに違いありません。
もうサンドウィッチ構造には戻れない、今はそう思ってしまっています。
著名な自作キーボード作者の方々は、打鍵感と打鍵音にこだわりを持ち、様々な工夫をしています。なぜそこまでこだわるのか、僕は少しわかってしまった気がしています。
僕もそれを今後追いかけていくことになるのか。。。自分が怖いです。
まとめ
さて、今回はLunakey Mini向けにケースを作り始めた話を取り上げてみました。ひとまずトレイマウントケースにいれたLunakey Miniを今日仕事で使ってみたのですが、とても満足しています。今のところ改良したい点は見つかっていません。
このサンドウィッチ構造とトレイマウントケースの違いを多くの人にも体感してもらいたく、今回設計したLunakey Mini向けのトレイマウントケースを、BOOTHにて販売してみようと思っています。ケースひとつあたり出力に7時間かかるので一気に個数を増やすのは難しいのですが、Lunakey Mini の rev 4 以降を購入していただいた方々は、ぜひ購入いただいて使ってみていただきたく。
(追記: 2021/05/11 BOOTHにて販売を開始しました! )
Lunakey Mini rev 2 以前を購入いただいた方は、ネジ穴の位置が変更されているために、今回のケースをそのまま使うことができません。「いや、ぜひ使ってみたいんですけど!」とご興味を持っていただいた rev 2 ユーザの方々は、僕に DM をください。
あ、ちなみに、Cherry MX互換キースイッチ向けです。Kailh Chocキースイッチ、つまりロープロファイルのキースイッチでLunakey Miniをお使いの場合は、おそらくフレームが高すぎて、親指で押すことになるキーを打鍵したときに、指がフレームに当たってしまうんじゃないか、と想像しています。まだ試していませんが、ロープロファイル向けのケースを別途設計しないといけないと思っていますので、こちらについてはお時間いただければと思います。
ああ、結局ケースを作り始めてしまった。Remapも開発しなきゃ。本職もやらなくちゃ。
いろいろがんばります。